PRESS RELEASE 調査・レポート

【名城大学】薬剤耐性拡大の新たな要因を解明

名城大学の研究グループが、高度なDNA取り込み能力を持つインフルエンザ菌が薬剤耐性遺伝子の拡散を促進する「増幅器」として機能することを解明。耐性菌そのものだけでなく「耐性を広げやすい菌」の監視が重要で...

出典: 学校法人 名城大学

薬剤耐性菌の拡散は世界的に深刻な問題となっており、対策が急務となっています。

名城大学薬学部の輪島 丈明准教授、田中 愛海助教、打矢 惠一教授らの研究グループは、中耳炎や副鼻腔炎、肺炎などの原因菌であるインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)において、高い形質転換能注1)をもつ「高度形質転換能株」の存在が、薬剤耐性に関与する遺伝子の獲得と拡散を促進する重要な役割を担うことを明らかにしました。

本研究では、インフルエンザ菌だけでなく近縁菌のヘモリティカス菌(Haemophilus haemolyticus)注2)およびパラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)注3)由来の耐性遺伝子が、形質転換能の高い株に取り込まれることを確認しました。さらに、高度形質転換能株が獲得した耐性遺伝子は、他のインフルエンザ菌へ高頻度に伝播することが判明し、同株が耐性拡散の「増幅器(amplifier)」として機能する可能性が示されました。

本成果は、薬剤耐性菌対策において「耐性菌そのもの」だけでなく、「耐性を広げやすい菌」に着目した監視の重要性を示すものであり、将来的な耐性菌の出現予測や新たな感染症対策への応用が期待されます。

本研究成果は、2026年5月11日にOxford University Press が出版する国際学術誌「Journal of Antimicrobial Chemotherapy」に掲載されました。

・高度なDNA取り込み能力を持つインフルエンザ菌では、キノロン耐性に関与する遺伝子の伝播効率が大幅に上昇した

・インフルエンザ菌だけでなく近縁種のヘモリティカス菌やより遺伝的に離れたパラインフルエンザ菌由来の遺伝子も取り込み耐性化した

・「耐性を持つ菌」だけでなく「耐性を広げやすい菌」の監視も重要であることを示した

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、小児における中耳炎や副鼻腔炎、肺炎などの原因となる重要な病原細菌です。近年、本菌ではβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性化が進んでおり、代替薬としてキノロン系抗菌薬が使用される機会が増えています。しかし近年、日本ではキノロン感受性が低下したインフルエンザ菌の増加が報告されており、その拡大メカニズムの解明が求められています。

インフルエンザ菌は「形質転換」と呼ばれる現象により、周囲の細菌から放出されたDNAを取り込み、自身の遺伝情報として利用する能力を有しています。これまでに本研究グループは、キノロン耐性に関与する遺伝子がこの機構によって菌から菌へ水平伝播することを明らかにしてきました。

インフルエンザ菌の中には、DNAを取り込む能力が非常に高い「高度形質転換能株」の存在が知られています。しかし、このような菌が薬剤耐性拡大にどのような役割を果たしているのかは明らかになっていませんでした。

本研究では、インフルエンザ菌だけでなく、近縁菌であるヘモリティカス菌およびパラインフルエンザ菌からインフルエンザ菌へのキノロン耐性遺伝子の伝播を解析しました。さらに、通常株と高度形質転換能株を比較し、薬剤耐性拡散への影響を検討しました。

その結果、インフルエンザ菌およびヘモリティカス菌由来の耐性遺伝子は通常株にも伝播しましたが、遺伝的により離れたパラインフルエンザ菌由来の耐性遺伝子は、高度形質転換能株でのみ効率的に取り込まれることが分かりました。さらに、高度形質転換能株が一度耐性遺伝子を獲得すると、その菌由来DNAは他のインフルエンザ菌へ通常株よりも高頻度に伝播することが明らかとなりました(図1)。

図1(左上) 実験の概要図、(左下) 実際に出現した耐性菌のコロニー、(右) 耐性菌出現数の比較

また、形質転換により耐性を獲得した株では増殖能の低下は認められず、耐性獲得後も集団内で維持される可能性が示されました(図2)。

図2 形質転換によって出現した耐性株と耐性化前の株(高形質転換能株)を混合培養した場合の生存菌数の比較、耐性を獲得した株では増殖能は低下していない

これらの結果は、高度形質転換能株がキノロン耐性遺伝子を取り込みやすいだけでなく、その後の耐性拡散を促進する「増幅器(amplifier)」として機能する可能性を示しています(図3)。従来は「耐性菌そのもの」の監視が重要視されてきましたが、本研究は「耐性を広げやすい菌」の存在にも注目すべきことを示した成果です。

今後、耐性菌の検出だけでなく、高度形質転換能株そのものを早期に監視・同定する技術の開発につながれば、薬剤耐性菌の出現や拡大を未然に防ぐ新たな感染症対策への応用が期待されます。

図3 高形質転換能を持つインフルエンザ菌が耐性遺伝子の伝播を促進する概念図

注1 形質転換能:

細菌が周囲の細菌由来DNAを取り込み、新しい性質を獲得する能力

注2 ヘモリティカス菌:

ヒトの上気道に常在する、比較的病原性の低いヘモフィルス属細菌

注3 パラインフルエンザ菌:

口腔・上気道に常在しているが、中耳炎や副鼻腔炎、肺炎、尿路感染症の原因となる菌。薬剤耐性遺伝子の保有が報告されている。

雑誌名:Journal of Antimicrobial Chemotherapy

タイトル:Highly transformable Haemophilus influenzae as a potential amplifier of quinolone resistance dissemination

(高形質転換能をもつインフルエンザ菌はキノロン耐性拡散の増幅因子となる)

著者名:Takeaki Wajima, Tsukino Kubota, Emi Tanaka, Azusa Hirata and Kei-ichi Uchiya

(輪島 丈明、久保田 月乃、田中 愛海、平田 あずさ、打矢 惠一)

掲載日時: 2026年5月11日

DOI : 10.1093/jac/dkag160

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI、課題番号24K09785)、公益財団法人武田科学振興財団 薬学系研究助成、および名城大学総合研究所の支援を受けて実施されました。

・研究内容に関すること

名城大学 薬学部 准教授

輪島 丈明(わじま たけあき)

Tel : 052- 832-1151(代表)

Email : twajima@meijo-u.ac.jp

・広報担当

名城大学渉外部広報課

Tel : 052-838-2006

Email : koho@ccml.meijo-u.ac.jp

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