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薬剤耐性菌の制圧に向けた創薬の新展開 ―アミノ酸マッピングによる新規阻害剤の効率的合成―

薬剤耐性菌の制圧に向けた創薬の新展開 ―アミノ酸マッピングによる新規阻害剤の効率的合成―

出典: 学校法人近畿大学

学校法人近畿大学が@Pressで配信したプレスリリースの原文を、Zero Press が転載して掲載しています。

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研究成果のポイント

●アミノ酸マッピング※1 と呼ばれる新規計算手法によって、病原細菌が薬剤耐性を獲得・発揮するために重要な情報伝達タンパク質「ヒスチジンキナーゼ※2」を阻害する薬剤「Hbox阻害剤※3」を発見

●アミノ酸マッピングにより、既存の阻害化合物の情報から1200万種の化合物を含むバーチャルライブラリーを効率的に調べることに成功

●多くの既存抗生物質が効かない多剤耐性菌に対抗するため、次世代型抗菌薬としてHbox阻害剤の発展に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の岡島俊英准教授、内海龍太郎招へい教授、岡山大学学術研究院教育学域の石川彰彦教授、富士フイルム株式会社解析技術センターの津村享佑主任研究員、近畿大学生物理工学部の江口陽子教授、微生物化学研究会微生物化学研究所(BIKAKEN)の五十嵐雅之部長、および九州大学大学院農学研究院の中山二郎教授らの研究グループは、アミノ酸マッピング(Amino Acid Mapping、以下AAM)と呼ばれる新規計算手法(図1)と有機合成の手法を用いて、細菌ヒスチジンキナーゼを特異的に阻害する新規化合物を発見しました。

類似の天然化合物からなる阻害剤は、これまでにも見出されていましたが、細胞毒性を示すうえに、複雑な構造のため有機合成による改良・最適化も困難でした。今回、富士フイルムの開発したAAMの手法を用いることにより、1200万種の化合物を含むバーチャルライブラリーから新規骨格を有する阻害剤のデザインと有機合成に成功しました。得られた阻害剤は多剤耐性化した病原細菌が持つヒスチジンキナーゼも阻害し、細菌を直接殺菌するだけではなく、その病原性や薬剤耐性を抑え込むことができ、薬剤耐性菌による感染症の発症や重症化を抑制できる可能性があります。

本研究成果は、Springer Nature社『The Journal of Antibiotics』(オンライン)に9月30日(水)付で公開されます。

内海龍太郎招へい教授のコメント

これまでに我々の研究グループでは、放線菌の培養抽出物から天然のヒスチジンキナーゼ阻害剤であるwaldiomycinを見出していました。しかし、waldiomycinは動物細胞に毒性を示し、複雑な構造のため有機合成、さらには改良・最適化も困難でありました。このような短所を克服した合成阻害剤を得ることができず、研究は10年以上停滞を余儀なくされました。しかし、今回、アミノ酸マッピングによる分子設計がブレイクスルーとなって、毒性を持たず、かつ有機合成が容易な新しい骨組みを有する阻害剤を開発することに成功しました。今後、各種病原細菌ヒスチジンキナーゼに最適な阻害剤が開発され、次世代型抗生物質として展開されていくことを期待しています。

研究の背景

近年、複数の抗菌薬が効かない多剤耐性病原細菌(ESKAPE※4 病原菌)が世界的に拡大しており、WHOも「ポスト抗菌薬時代」の到来を警告しています。これまでの感染症対策は、「細菌を殺す」ことを基本として発展してきました。しかし、中途半端な抗菌薬の投与により病原細菌が生き残ると、逆に薬剤への耐性を獲得した菌の出現が促進されてしまいます。その結果、新たな抗菌薬の開発と耐性菌の出現が繰り返されています。この不毛な状況を克服するために、細菌を殺すことを前提とした従来の戦略から、細菌の病原性や適応能力を制御するという新たな発想への転換が有効と考えられ始めています。

本プロジェクトでは、病原細菌がヒトには存在しない遺伝子発現制御システム※5 を介して、病原性発現、薬剤耐性、バイオフィルム形成などの重要な適応機能を制御していることに着目しています。この遺伝子発現制御システムの中核を担うヒスチジンキナーゼには、Hbox領域と呼ばれる保存された領域がありますが、これを標的とするHbox阻害剤は細菌を直接殺菌するだけでなく、ヒスチジンキナーゼ活性を阻害し、病原細菌の病原性や薬剤耐性などの適応能力を制御することが期待されます(図2)。

研究の内容

本研究では、AAMに基づくバーチャルスクリーニングを用いて、新規ヒスチジンキナーゼ阻害剤を探索しました。既存のHbox阻害剤waldiomycinの一部が、ヒスチジンキナーゼのHbox領域に結合するため、まず、この部分構造のAAM記述子を算出しました。このAAM記述子はHbox領域に結合しやすい化合物の特徴を表していることから、1200万種の市販化合物から類似したAAM記述子を示す714種類の化合物を選抜することができました。これらの中から、waldiomycinとは異なる新規骨格をもつ17種類の化合物(誘導体)を合成し、ESKAPE由来ヒスチジンキナーゼに対する阻害活性を評価しました。その結果、2種類の誘導体が強い阻害活性を示し、低い濃度でも効果があることがわかりました(図3)。さらに詳細な解析を進めたところ、Hboxのアミノ酸残基が誘導体結合によって影響を受けること、Hboxのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に変換すると、誘導体の阻害活性が大きく低下することもわかりました。質量分析を駆使した解析からは、得られた誘導体はwaldiomycinと同じ部位に結合することも示されました。これらの結果は誘導体がHboxに結合することを明確に示しています。

以上の結果から、これらの誘導体は、ヒスチジンキナーゼのHbox領域を標的とする新規Hbox阻害剤であることが示されました。本研究は、高度に保存された領域を標的とするHbox阻害剤の探索に、AAMを基盤としたスクリーニング手法が極めて有効であることを、世界に先駆けて示しました。

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