世界初!系図学・系譜学の包括的理論体系を構築中
系図系譜学研究所(所長:木下祐也)は、学術雑誌『系図系譜学論究』において研究論文「系図系譜学の理論体系構築のための試論」を連載している。同論文シリーズは、系図系譜研究としては世界で初めての理論体系を創設するものであり、手続的正義を採用し、最高規範を頂点とする法体系型の理論体系として構築することなどいくつもの世界初の試みを内包している。また、家系や系統、当主、家祖、親族、家族などの重要概念を定義した他、混系や氏族分流など多数の造語も行った。

系図系譜学の理論体系構築の状況
系図系譜研究は、「過去の事実を調査研究するなら歴史学」という大雑把な思い込みから歴史学の一種のように誤解されてきましたが、過去の事実を調査研究する学問分野ないし調査研究実務には、訴訟実務や経済分析などもあり、それらを歴史学扱いする人はいませんから、系図系譜を研究する学問分野が歴史学とは別個のものであってもおかしくはありません。また、歴史学は過去の事実に対して意義を付与しますが、系図系譜研究は純粋に事実認定だけをするものですから、歴史学とは目的も方法も異なり、本来的に別の学問分野ということになります。他方、系図系譜研究にもこれまでまともな理論体系がなかったために、上記誤解を生じる余地があったことも確かです。
そこで、新たに系図系譜学を構築するにあたり、まず、そもそも学術研究とはどのような営みかを考えました。
およそすべての学問分野ないし調査研究実務は、複数の研究者によって学界が構成されるものである以上、一般の社会と同様、ルールに基づいて学術的営為が行われていることは明らかです。そして、そのようなルールは概ね慣習法の形で存在しています。
ハンス・ケルゼンは、人々が憲法を遵守しようとするのはなぜかと考えたとき、「ルールは守るべきだ」という根本規範があると考えました。私はこれを応用し、学術研究も同様に、およそすべての学問分野ないし調査研究実務は、事実又は真理の解明を目的とし、客観的合理性に基づいて論証することを根本規範としていると捉えました。
かかる根本規範が存在するとした上で、系図系譜学は、実験で再現できることを科学性とする自然科学とは異なり、一回性の過去の事実を認定する学問分野ですので、自然科学とは別の方法で事実又は真理を解明するための客観的合理性に基づく論証をする必要があります。一回性の過去の事実を認定する学問分野ないし調査研究実務には、歴史学もありますが、歴史学の方法論は1940年代から未発達であり、証拠評価方法が多少言語化されている程度ですし、実質的な学問目的が意義付与である(歴史学者の自認する学問目的は、研究者自身の知的好奇心を満たしたり反省したり考えたりする行為そのものとのことですが)以上、手段としての方向性も理論化の程度も不適切ですし、論文の構成も論理構成基準ではなく、検討過程や出典情報が断片的にしか書かれませんので、採用できません。
他方、訴訟実務も一回性の過去の事実を認定するものであり、これは法学や実務において相当に理論化され研究が蓄積されています。しかも、系図系譜学の主要な研究内容である、親子関係の存否の認定とパラレルな制度として、親子関係不存在確認訴訟や嫡出否認の訴えもあります。
そこで、系図系譜学では、訴訟実務を応用することとしました。それに合わせて、一回性の過去の事実を認定する学問分野の科学性についても、法学の手続的正義という概念を応用することにしました。すなわち、誰がやっても同じ結論になるとは限りませんが、結論に至るまでの検討過程を詳細に開示し、検討過程が妥当であるならば、その結論を学術的事実としようという考え方です。それぞれの検討過程が妥当である限り、異説が併存することもありえます。
根本規範や手続的正義、訴訟実務を応用する以上、系図系譜学のベースは法学とするのが自然です。そこで、系図系譜学の理論体系自体を法体系と同様に定める方が一貫性・整合性ともに優れると考えました。もちろん、法学のみならず、政治学や遺伝系図学、医学など他の学問分野のアプローチや知見も採り入れますが、ベースは法学を応用して構築する方が、理論体系としては合理的かつ頑健になるはずです。
そこで、手続的正義を実現するために審査可能性原則や精緻化原則などを最高規範に定めた上で、4つの学問目的を定める目的論、学問対象を定める対象論、さらに理論体系をどのような下位分野でどのような関係のものとして構成するかを定める分野体系論を合わせて系図系譜学の憲法典に位置づけ、これに基づいて、用語論や方法論その他の下位分野を構築していくこととしました。そして、最高規範に基づき、目的論では学問目的の要件、用語論では定義の要件、方法論では方法論の要件を定立しました。
調べた限り、学術研究をルールに基づく人々の社会的行為と位置づけた上で、理論体系を法体系のように構築した学問分野は系図系譜学が世界初のようで、学術研究の根本規範を明らかにした研究も存在しないと思います。この点は、学問論ないし科学哲学の研究者には面白いのではないかと思います。
対象論では、これまでいい加減に定義されていた「系図」「系譜」の語義を精緻化しました。用語を用語論で定める際に、これまで同義語過多、語義過多の問題のあった「偽系図」や、歴史学専用語である「史料」や文書上に記載があるという意味での「見える」など、伝統的系譜学・歴史学で用いられていた用語を不採用としました。
何が世界初なのか
系図系譜学では、いくつもの世界初の試みが採用されています。
一回性の過去の事実の認定をするための科学性の担保方法として手続的正義を採用したこと。
それに伴い、学問分野の理論体系を法体系に類似させて構築していること。
さらに最高規範を策定したこと、下位分野の体系を論じる分野体系論を策定したことに加えて、最高規範・目的論・対象論・分野体系論を学問分野の憲法典として位置づけたこと。
学問目的の要件、定義の要件、方法論の要件を定立したこと。
そして、系図学・系譜学の理論体系自体を構築していること。(※アメリカにあるGPSはあくまで実務での証明基準であり、Genetic GenealogyはDNA解析に限定されており、ガッテラーやローレンツの書籍は理論体系書ではなく理論書です。)
①科学性の担保方法:手続的正義
②理論体系のタイプ:法体系型の学問分野の理論体系
③最高規範の策定:学問分野の基本原理
④分野体系論の策定:下位分野の体系
⑤基本原理:最高規範・目的論・対象論・分野体系論を学問分野の憲法典として位置づけた
⑥各種要件の策定:学問目的の要件、定義の要件、方法論の要件を定立
理論体系の要旨(既発表分)
(1)最高規範
ア 学問分野ないし調査研究実務における根本規範事実又は真理の解明を目的とし、客観的合理性に基づいて論証することが学問分野ないし調査研究実務における根本規範である。
イ 系図系譜学における学術的事実系図系譜学における学術的事実とは、学術研究において手続的正義に基づいて認定された事実である。
手続的正義とは、検討過程が開示されることにより審査が可能となり、その審査を経て検討過程が適正と認められる場合には結論を妥当と考え、逆に検討過程に不当な部分があると認められる場合には結論も不当と判定されることをいう。
ウ 諸原則- 審査可能性原則
- 精緻化原則
- 反権威主義
- 平等主義
- 学際的統合
- 演繹・帰納交互構築主義
- 構築過程開示主義
系図系譜学における最高規範は、系図系譜学の理論体系全体を統制する根本的な規律であって、目的論、対象論及び分野体系論とともに系図系譜学における憲法典を構成し、これらが系図系譜学における憲法典の基本的な原理原則及び統治機構に相当するものとして位置づけられる。
(2)目的論・対象論
ア 学問目的の要件①他の学問分野との識別に不可欠な程度の固有の要素を有し、②主体的・能動的実現性:その学問分野が主体的かつ能動的に実現すべき事柄を規定し、③もって研究活動の範囲を画定するものであって、④消極的要件:外部効果、第三者に対する願望若しくは期待、第三者にとっての用途、単なる研究者自身の自己満足、下位分野の目的又は個別具体的な研究の目的でないもの
イ 系図系譜学の学問対象系図系譜学の学問対象の内容的実質は、①作成者・研究者が選択した範囲に属する②続柄という関係性で結合していると認められる③人々の④時系列に基づく⑤データであり、これを歴代親族構成情報という。
ウ 系図系譜学の学問目的学問目的①:真の歴代親族構成情報を明らかにすること
学問目的②:系図譜にまつわる諸事象の類型、傾向及び変遷を明らかにすること
学問目的③:系図譜集及び事典類その他のデータベースを編纂・構築すること
学問目的④:学問目的①~③の研究成果を歴史学、医学、遺伝学その他の学問分野において応用するための方法論その他の理論を確立すること
このうち学問目的①が中核的学問目的である。
(3)用語論
ア 定義の要件①判断基準機能:物事・概念について、それに該当するか否かの判断基準として機能するものであること。
②本質的属性の表現:被定義項として想定されるもの全体に通底する要素・性質を表現するものであること。
③循環定義の排除:定義項に被定義項又はその実質的な同義語を含まないこと。
④一義明確性:曖昧不明瞭な文言及び比喩的表現がないこと。
⑤過度広汎性の排除:想定しない対象を含みうる文言になっていないこと。
⑥過小包摂性の排除:含むべき対象を除外するような文言になっていないこと。
古典的系図譜学・伝統的系譜学・系図系譜学の定義、系図譜という総称、Genealogyの訳語問題、系統・家系・家祖・当主・男系・女系・混系・氏族分流などの重要概念の定義及び造語、「偽系図」「偽文書」等不実記載文書概念の伝統的用語の不採用と定義及び造語、「史料」・「傍証」・「史実」・「補助学」・文書上に記載があるという意味での「見える」・「伝える」などの使用禁止など。
(4)方法論
方法論の要件
①理論性:学問目的を達成するために用いられる実践的研究手法・調査手順・評価基準の体系を一般化・抽象化・記号化して汎用的かつ体系的に整理されたもの
②審査可能性:第三者によって方法論の妥当性を審査されうること。
③実質的関連性:学問目的ないし分野目的とそれを達成するための手段方法との間に実質的関連性が認められること。
伝統的系譜学・歴史学の方法論ないし慣習は、上記要件を満たさないため採用しないこととした。
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